1 授業の目的と概要

社会学を中心としながらも、心理学を含めた社会科学的視点から、災害と被害の発生に関する社会的背景と人間行動を分析するとともに、復興の理念とその実現に関する社会的諸問題を検討し、復興に関する基本的問題を考察する。単なる事例紹介ではなく、諸事例に通底する法則性に留意し、汎用性の高い能力を涵養する。

2 学習の到達目標

  1. 災害の発生が単なる自然現象ではなく、社会制度や社会階層、さらには人々の行動性向や社会意識に規定された社会現象であることを理解し、説明できる。
  2. 講義で紹介される具体的諸事例と理論を基に、自分が特に興味を持った事例について、直面する問題を理論的に分析し、問題解決策を提示できる。
  3. 各大学における各自の専門と復興大学における他の科目の受講をも踏まえて、社会的危機からの「復興」における立ち位置(自らの課題)について理解し確認することができる。

3 授業の内容・方法と進度予定

この授業のキーワードは「コミュニティ」「ボランティア(支援)」「原発」「心」である。毎回、これらのキーワードのいずれか(多くは複数)と関連づけながら、各講師が個別のテーマについて講義を行う。被災現地の状況に詳しいゲストを招くこともある。授業の進度予定は次の通りである。

[1] 「復興の社会学」-目標と意義:何のために、そして誰のために?-
海野 道郎 宮城学院女子大学前学長
社会学の考え方を基礎とした分析が、「社会の復興」に対してどのような貢献ができるかについて考察する。この科目全体の構造を示すとともに、その中に各講義を位置づける。また、受講に当たっての留意事項や要望、評価の方法などについて述べる。
[2] 津波被災者はなぜ元の土地に戻ることを望むのか
佐久間 政広 東北学院大学教養学部教授
家屋の大半が流出した気仙沼市唐桑町のある集落では、被災後一月も経過しないうちに元の土地での住宅再建をめざす活動を開始した。なぜ住民たちは住み慣れた土地を離れようとしないのか。講義では、“住む”という人間の営みの意味について考察をおこなう。
[3] 人はなぜ援助するのか-人々を災害ボランティアに駆り立てたもの-
佐藤 嘉倫 東北大学大学院文学研究科教授
名嶋 義直 東北大学大学院文学研究科教授(ゲストスピーカー)
東日本大震災後にボランティア活動が盛んに行われた。しかし理論的に考えると、ボランティア活動をすることはコストのかかることである。それなのに、なぜ人々は他者を援助するのだろうか。ゲストに名嶋義直氏(東北大学教授)を迎え、理論面と実践面から検討する。
[4] 大災害の渦中でなぜ祭礼が執り行なわれるのか
植田 今日子 東北学院大学教養学部准教授
大災害の渦中で故郷に帰ることが可能かどうかさえ判明しない状況下で、祭礼はなぜ執り行なわれるのか。避難指示下で行われた家畜をともなうふたつの祭礼(山古志・牛の角突き/南相馬市・相馬野馬追)から考える。
[5] 住民の意識から考える復興の道筋
阿部 晃士 山形大学人文学部准教授
復興の長い道のりを、人びとはどのようにとらえているのだろうか。ここでは、岩手県や岩手県大船渡市の事例をとりあげながら、生活再建やまちづくりに関する意識の実態やその変化について解説し、望ましい復興のありかたを検討する。
[6] 災害後の避難所運営の問題点と課題
水田 恵三 尚絅学院大学総合人間科学部教授
大規模災害後の避難所は、一時地域のコミュニティが再度体制化していく過渡期にある場所と言える。ここでは特に避難所運営がどのように行われたのかを中心にそこに地域のコミュニティがどのように関わったのかを、事例を中心に展開していく。
[7] 被災者のマナーと災害文化
阿部 恒之 東北大学大学院文学研究科教授
東北の被災者の落ち着いた行動は海外から称賛された。実態はどうだったのか、また、なぜそのような行動をとれたのだろうか。災害リスクを減らすための災害文化の醸成について考える。
[8] 宗教と心の復興
木村 敏明 東北大学大学院文学研究科教授
宗教は災害死者の慰霊や生者への心の支えの提供などにより災害復興で重要な役割を果たしうる一方、公的機関との連携などには多くの課題を抱えている。本講義では、具体的な事例によりつつ宗教による復興支援の意義と課題を明らかにする。
[9] 迷いにある生者と死者のことを大震災の現場から考える
金菱 清 東北学院大学教養学部教授
幽霊現象や生ける死者としての慰霊碑を通して、追悼でも教訓でもなく、曖昧な喪失における死のあり方を災害から考える。
[10] 「パートタイム正規雇用社会」へ
原 純輔 放送大学宮城学習センター所長
復旧・復興の究極の目標は、人々の「安定した暮らし」である。他方、被災地の今後には「強化された格差社会」というべき状況が予想される。「安定した暮らし」の具体像と、その成立条件について、少し広い視野で探る。
[11] 被災と避難と居住地の選択-福島県の事例をもとに-
加藤 眞義 福島大学行政政策学類教授
福島では、原発震災の影響が根深く、浜通りを中心に避難生活が継続している。<自力による移住か、早期帰還か>という二択の選択が提示され、移住への制度的支援や長期避難後の帰還にたいする制度対応は不十分なままである。「復興」政策の課題をさぐる。
[12] ひとつの復興、いくつもの復興
吉原 直樹 大妻女子大学社会情報学部教授
原発被災地の復興への見通しは未だ立っていない。帰還と移住の間にあって、多くの被災民は前に進むことができないでいる。メディア含め、社会全体が棄民化をおしすすめているようにみえる。こうした状況を見据えながら、ポスト復興の課題を考えてみる。
[13] 災害犠牲者と向き合う-生きた証プロジェクト-
麥倉 哲岩手大学教育学部教授
岩手県大槌町では、大災害で犠牲となった1284人の記録をいま作成中である。「生きた証プロジェクト」である。故人のことを①忘れないために、②死を弔い・死者と対話し、③遺志や教訓を引き継ごうとしている。授業では、この取り組みが持つ社会学的意味を検討する。
[14] 脱原子力社会の選択
長谷川 公一 東北大学大学院文学研究科教授
福島第一原発事故を契機に、原子力発電をミニマム化することが可能かどうかが、大きな争点となっている。脱原子力社会への政策転換はどうすれば可能なのか。主要争点を社会学的に分析し、政策転換のための諸条件や社会的・政治的課題を考える。
[15] 被災地の教育支援の方法について考える
秋永 雄一 東北大学大学院教育学研究科教授
今井 悠介 公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン・代表理事(ゲストスピーカー)
被災地での教育支援はボランティアによる学習援助や相談が中心であった。授業ではこれとは異なる発想で支援に取り組んでいる若いゲストを迎え、生活再建も射程に収めた教育支援方法の可能性について議論を行いたい。

4 成績評価方法

授業への積極的な参加度評価(各回のミニットペーパーなど) 60%
レポート(2回) 40%

5 教科書および参考書

特定の教科書は指定しない。参考書は、講義の中で紹介する。

6 その他

なし

コーディネーターより

海野 道郎 宮城学院女子大学 学長