1 授業の目的と概要

東日本大震災後の救援・復興をめぐって、日本の政治過程・政策過程に潜む重要な問題点・欠陥が顕在化し、そのことが復興策の「混乱」に影響を与えたと言われている。混乱から脱して復興を適切に構想するにあたっては、まず、大災害時に具体的な制度的・社会経済的諸条件の中で具体的な主体がどのような具体的言動を行っているかを分析することが重要である。この授業は、東日本大震災後の対応に影響を与え、将来の方策をも左右すると考えられるいくつかの主要なファクターについて、参加者自らが主体的に具体的事例の報告を行い、必要な資質を習得することを目的としている。
なお、全体を通して、諸外国の事情をも参照しながら授業を進める予定である。

2 学習の到達目標

  1. 大災害後の復旧・復興・責任追及をめぐる具体的な政治過程の分析を通して、主要な主体が具体的諸条件の中でどのような言動を行う傾向があるかを理解できる。
  2. 具体的な政治過程に関する他者の分析と自己の分析を冷静に比較し、適切な討論を通して一定の結論を導くことができる。
  3. 大災害に適切に対応するための方策について、自ら情報を収集・調査し、自ら適切に考える習慣を身につける。
  4. 自分が現在保有している情報・知識・資質をフルに動員し、それらを組み合わせて、与えられた条件の下では最大限に適切な考え方および行動を導くための資質を身につける。

3 授業の内容・方法と進度予定

  1. 主題ごとにテーマを設定し、入手可能な材料を最大限に用いて参加者が報告する。
  2. 報告内容に基づき、教室で利用可能なすべての資料を活用しながら、主題に即して参加者が討論する。
  3. 参加者による発言に関する分類、まとめ等は、担当教員が行う。
  4. 成績評価の間主観性確保にも関わるため、毎回の授業を複数の教員が担当する。

授業の進度予定は次のとおり。

[1] 全体のオリエンテーション:実施方法(資料探索を含む)の説明、問題提示および報告分担の決定
井上 義比古 東北学院大学法学部教授、他
1. 進め方の説明
2. 報告者に求められる作業内容の説明
3. 報告の仕方の説明
4. インターネットを含む資料検索&活用方法の説明
5. レジュメの作成方法の説明
6. 討論の仕方の説明
7. 各課題の内容説明
8. 評価方法の説明
[2] [3] 関東大震災:首都復興の政治過程
齊藤 誠 東北学院大学法学部教授
関東大震災後には、パリ大改造の都市計画を参考にした首都東京の大規模な復興が計画され、当初計画からの規模縮小はあったが、実行された。この事業の実施に至る政治過程、事業のもつ意味(東日本大震災からの復興に対する示唆を含む)を探求する。
[4] [5] [6] 地震対策と原子力政策:科学技術の政治過程
井上 義比古 東北学院大学法学部教授
日本においては、国家レベルの事業として、地震予知および地震・津波被害に関する最先端の科学的研究が行われ、地震対策事業にも巨額の予算が費やされてきた。他方、国土面積の狭隘性および大規模地震発生数にも関わらず、数多くの原子力発電所が建設されてきた。この2つの分野に潜む重大な問題および日本のような地震大国では密接に連動すべきはずの分野がなぜあまり連動していなかったのかについて検討する。
[7] [8] [9] 原子力施設事故発生時の対市民対応:緊急事態情報提示の政治過程
塩屋 保 東北学院大学法学部教授
東日本大震災に伴う原子力発電所の重大な事故に際して、政府による市民に対する情報提供には、大きな問題があったといわれている。この問題点の背景には、電力会社の体質だけではなく、緊急時対応の基本政策のあり方、緊急時対応常設機関のあり方、緊急時対応臨時組織の設置の仕方、各省庁の通常時および緊急時の組織過程、マスメディアの組織過程、(学会を含む)研究機関の組織過程など、多くの要因が存在している。個別の要因を確認するだけではなく、適切な情報提示はどのようなものか、適切な情報提示にはどのような条件が必要かについても検討したい。
[10] [11] 被災地域自治体の対応:非常時における行政過程
木下 淑惠 東北学院大学法学部教授
(政府とは異なり)全力で献身的に動いている被災地域の自治体、という一般的イメージとは異なる事例も報道には散見される。行政過程に関する調査研究からすれば、献身的に努力するにもかかわらず、あるいはむしろ献身的に努力するからこそ、緊急時に実現すべき目的の遂行が阻害されることは、十分にあり得る。行政過程の作動原理、行政に求められる矛盾する要求などの観点から、自治体の対応を検証する。
[12] [13] [14] 復興の方向と知的エリート:復興理念の政治過程
白井 培嗣 東北学院大学法学部講師
東日本大震災後の復興の形に関しては、優勢な議論以外にも、多様な観点からの多様な言説が存在していた。たとえば、地域全体の移転などよりも、経費の問題はあるものの技術的には十分可能な、より大規模な堤を設置すればよい、といった提案である。多様な主張の背景および適否を検証し、それらが一定の方向に収斂させられてゆく政治過程を分析する。
[15] 全体のまとめ:事例分析のまとめと最終レポートについての説明
井上 義比古 東北学院大学法学部教授、他
事例に関する報告および討論から得られた事実および知見をまとめ、最終レポートの書き方、レポート作成に関する相談の方法、などについて説明する。

4 成績評価方法

以下のような要素について、担当教員全員の協議に基づいて以下の割合で点数化し、総合点で評価する。

授業での報告 50%
報告をめぐる発言 25%
最終レポート 25%

5 教科書および参考書

教科書は特に使用しない。必要な文献・資料についてはその都度指示する。

6 その他

Eメールアドレス等の連絡方法は、第1回目の授業オリエンテーション(7月25日(土))で伝達する。
第2回目以降の授業は後期に実施する。

コーディネーターより

井上 義比古 東北学院大学 教授